研究内容

主な研究テーマ

  1. プロテオーム解析手法の開発
  2. タンパク質翻訳後修飾の検出と機能解析
  3. 診断マーカー及び創薬ターゲットタンパク質の探索
  4. 新規な臨床検査技術の開発

これまでの研究内容

 1980年代からタンパク質の一次構造を解析するための技術開発研究を行い、ダンシルアミノ-PITC法 (Biol Chem Hoppe-Seyler 367: 1259, 1986)、電気泳動で分離されたタンパク質を膜フィルターに転写してシークエンサーでアミノ酸配列を決定する方法(J Protein Chem 8: 115, 1989)などの開発に尽力した(平野 久著 遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析, 東京化学同人 1993)。そして、開発した技術を用いて、植物、酵母、マウス、ヒトなどの様々なタンパク質の構造と機能の解析を行った。これらの研究は、植物のC4光合成遺伝子の単離(J Biol Chem 263: 11080, 1988)、糸状菌抵抗性タンパク質発見と抗菌性のメカニズムの解明(J Biol Chem 287: 18710, 2012)、自家不和合性を支配するタンパク質の発見(Mol Gen Genet 260: 261, 1998)、小麦栽培史上初のモチ小麦の創出(Mol Gen Genet 248: 253, 1995)、ホルモン様ペプチドの発見と機能解明(Eur J Biochem 270: 1269, 2003)など、新しい分野の研究の発展につながった。
 2000年頃からは、質量分析装置とその周辺技術の開発研究に携わり(平野 久著 プロテオーム解析, 理論と方法, 東京化学同人 2001; 平野 久・大野茂男編 翻訳後修飾のプロテオミクス, 講談社 2011)、開発された技術を用いて疾患関連タンパク質の検出と応用に関する研究を始めた。タンパク質の発現異常や翻訳後修飾異常と病気の関係を解明し、病気の原因タンパク質の解明や、診断マーカーや創薬ターゲットの開発を目指した。この研究課題は、2006年に文部科学省イノベーションシステム整備事業「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」「翻訳後修飾プロテオミクス医療研究拠点の形成プロジェクト」として採択された。まず初めに、卵巣明細胞がんの診断マーカーを探索した。この疾患には適当な診断マーカーがなかった。様々な方法を用いて疾患関連タンパク質の検出を試み、卵巣明細胞がんの場合は、最終的にがん培養細胞から分泌される疾患関連タンパク質を解析してマーカー候補を探し出すことにした。この種のタンパク質は、罹病組織・細胞から血液に分泌される可能性が高いと考えられたからだった。分泌タンパク質の分析を行った結果、血中の優れた診断マーカーを見いだすことができた(J Proteome Res 12:4340, 2013; PLoS One 11:e0165609, 2016)。すでに診断薬が試作され、今年度中の上市を目指して現在、基本性能試験が行われている。年間売り上げは150億円と予想されている。プロテオミクスで見いだされたタンパク質を診断マーカーとして実用化する先駆け的研究になった。
 2005年頃から、川崎病に関連して発現が変動するタンパク質の研究に関わった。川崎病は、主として乳幼児に見られる疾患で、日本人医師による最初の報告から半世紀が経過したが、いまだにその原因が明らかではない。この20年ほどの間に急速に発達した質量分析装置とその周辺技術を用いれば、原因解明の手がかりとなるタンパク質発見の可能性があると考えた。2016年に急性期と回復期にある川崎病患者の血清中のタンパク質を分析し、当該疾患で特異的に変動する4種類のタンパク質を見いだした。臨床検証を行った結果、これらのタンパク質は診断マーカーとして利用できると判断された(Sci Rep 7:43732, 2017)。しかし、まだ原因の解明には至っていない。
 2010年頃には、肺腺がん培養細胞においてTGF-β存在下で変動するリン酸化タンパク質を解析する研究に携わった。TGF-β処理でがんの浸潤が促進される。TGF-βあるなしで培養した細胞のリン酸化タンパク質を質量分析装置で調べ、TGF-β処理によって発現が大きく変動する3種類のリン酸化タンパク質を捉えることができた。これらのタンパク質は、タンパク質量ではTGF-βあるなしであまり変化がなかったが、リン酸化レベルは大きく変動した。早期肺腺がん患者で手術によって摘出したがん組織を冷凍保存し、5年後、再発した患者としなかった患者、つまり予後不良と良好の患者を分けて上記のリン酸化タンパク質を調べてみた。するとタンパク質量では違いがないが、リン酸化タンパク質のリン酸化量には大きな違いがあることがわかった。5年生存率を見ても高リン酸化群と低リン酸化群では明らかな違いがあった。このことから、これらのタンパク質は、予後予測のマーカーとして利用できると考えられた (J Proteome Res. 14: 4127, 2015; Nat Commun 8: 14259, 2017)。